社会戯評 『春日かけ橋』平成23年2月号♪
「異議あり」に疑問?
戦前、戦中、戦後と日本の中枢で活躍した
岸信介元首相は引退して東京・渋谷の南平台に隠居していた。
そこに訪れる人から健康の秘訣を聞かれると
「転ぶな、風邪ひくな、義理を欠け」
の三つを養生訓だと話していたそうな。
ところが、前の二つは全くその通りだが、
「義理を欠け」には異議ありと大声を上げた人がいる。
確かに義理人情の大切さは分っているつもりだ。
大声の主も「同級生や先輩、後輩、知り合い…だらけ、
こんな周囲に助けられて、今日までなんとか生きてこられた」
「義理を欠いては、一日たりとも過ごせない」とおっしゃる。
御尤もである。
ただ、この方は高齢ではあってもおそらく
元気溌剌な人だろうと想像する。
なんとも羨ましい。
晩年、岸信介さんが言ったのはそのことではない。
高齢で身体の弱った人もいる。
にもかかわらず、
「亡くなった方への弔意を捧げたい一心で、
冬場の葬儀へ列席する」そして転ぶ、
風邪を引くなど大変悩ましいものがある。
そうした事情を「義理を欠け」
と言ったものと思うがいかがだろう。
その時代よりもさらに長寿社会となっている。
それが「嫌老社会」「無縁社会」とならないように祈る。
(立井大楠)
『春日かけ橋』2011年2月号